武士道とは ∼日本におけるノブレスオブリージュ∼

2017/11/14更新

武士道


今からさかのぼること100年以上も前の1900年、アメリカで1冊の本が出版された。

タイトルは『武士道』原題『Bushido ―The Soul Of Japan』。著者は、旧5000円札の肖像画でもおなじみの、新渡戸稲造です。

ただ、実際に彼がどの様なことをしたのか詳しく知っている方も少ないと思います。新渡戸は子供の頃から「大平洋のかけ橋になりたい」という志を持ち、そして、その志を実現するため努力し、明治後半から第二次世界大戦前にかけて活躍した人物なのです。彼は国際人でありましたし、有能な官僚、学者や教育者、それから、日本精神の指導者としての顔と多様性を持っています。


『武士道』は、新渡戸がアメリカ滞在中に書き上げたものなのですが、刊行され数年のうちに、ドイツ、フランス、イタリア、ロシア、ポーランドと各国の言語に翻訳され、世界的なベストセラーになりました。日本でも、1908年(明治41年)に学問的注釈が加筆された日本語訳が出版されています。

1908年と言いますと日露戦争に勝利し、少し浮足立っていた頃かとも思いますし、だからこそ、日本人としての在りよう、日本精神を考えてみようといった流れだったのでしょうね。

では、いったいなぜ、『武士道』は、これほど多くの国で読み継がれてきたのでしょうか。

おそらく、その普遍性にあるのでしょう。『武士道』では、文字どおり、武士が重視した日本における伝統的な価値観や行動規範が述べられていますが、それは「日本の武士階級」の中だけで通用するものでもなく、武士の潔く気高い生きようは、時代や国境を超え、なおすべての人間の心を打つものと言えます。






われ太平洋の橋たらん -新渡戸稲造と『武士道』-



『日本人がこれと言った、宗教観を持ってないのにも関わらず、何故、道徳教育ができるのでしょうか』


これは、新渡戸がドイツに留学中ベルギーの法学者に問われた文言です。

外国では、キリスト教など宗教観に由来した価値観を背景に善悪の基準を教えていたようですが、新渡戸はその事実に衝撃を受け、いかにして日本人に道徳観を説明するか模索します。

それだけではなく、時代背景にもその必要性があり、外国人に日本人を理解してもらう為といった側面もあります。日清戦争に勝利し、ロシアとも対峙しつつある時期でもありましたし、日本人を日本国を理解してもらうためにも、明確にする必要があったのです。

もし、理解もされず、やみくもに戦い、勝利したところで、「野蛮人が白人社会に抵抗してきた」、と片づけられる。今では認識しづらいとは思いますが、「力こそ正義の時代」でもありました。弱ければ植民地にされる、弱肉強食の時代でもあります。白人社会に対するアプローチとしての政治的思惑もあったのでしょう。

結果、1900年に出版され大ベストセラーとなったのが『武士道』なのです。今の日本人にも影響を与えてきた思想、考え方について話を進めてみたいと思います。




武士道 (PHP文庫) 文庫 – 2005/8/2  新渡戸 稲造 (著), 岬 龍一郎 (翻訳)
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武士道精神とは仏教・神道・儒教からなる



日本人はこれと言った、宗教を持っていないと冒頭で挙げましたが、正しくは国として定めた宗教がないだけで、仏教や儒教などの思想は多くの人々に影響を与えてきましたし、中でも、仏教・神道・儒教は武士道を支える上で特に重要な思想です。

仏教....運命を受け入れる。死への親しみ・親近感。

神道....主君に対する忠誠。先祖への尊敬・敬意。

儒教....主に孔子や孟子の思想を取り入れるなどして武士道の源としてきます。


「論語読みの論語知らず」 と言う言葉があると思いますが、つまり、表面上の言葉だけは理解できても、それを実行に移せないことのたとえであり、孔子の言葉をただ知っているだけで、それを行動に活かさない人を指摘した言葉です。

「言葉だけで、行動で示さない人間は美しくないよ」。と言う事ですね。

武士の行動とは、蓄えた知識も実際に使わなければ意味がない、行動に反映させてこそ知識や知恵であるという「知行合一(ちこうごういつ)」の精神からも影響を受けていることがわかっています。

武士道精神は、こうした思想・宗教観を背景に成り立っているのです。
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武士道とは、この7つの徳目の事である



「武士道」とは「義、勇、仁、礼、誠、名誉、忠義」からなる道徳である。

「義」...人間としての正しき道、正義を指すもので、武士道のもっとも厳しい徳目である。「フェアプレイ精神」
「勇」...義を貫くための勇気のこと。犬死はならぬが、正義の為なら、命も惜しまず。
「仁」...人としての思いやりと他者への憐れみの心。「惻隠の情」であり弱き者を、いたわり思いやる心。
「礼」...仁の精神を育て、他者の気持ちを尊重し、そこから生まれる謙虚さ。つまり礼のことで、「礼儀作法」の根源。
「誠」...文字通り、言ったことを成すこと。嘘や誤魔化しを嫌い「武士に二言はない」という言葉は武士道の徳目である。
「名誉」...自分に恥じない高潔な生き方を追求し、そして守ること。つまり、恥を知ることにより、己自身の立ち振る舞いを正される。如何に美しく死ぬかを追求する事は同時に生きる事も追及する事になり、そして、その命とは何のためなのか、と言う哲学にたどり着く。
「忠義」...なんのために生きるのか、それを表すもの。己の正義に値するものであるなら、絶対的な従順を示す。しかし、奴隷にはならず、己の命をかけて主君に意見する事でもある。
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武士道が与えた影響とは



こういった、道徳から成り立つ「武士道」が、今にどのような影響を与えているのでしょうか。もちろん、日本人の精神性や行動の規範に、見て取れる事は言うに及びませんが、日本だけでなく、海外にも影響を与えています。

元アメリカ合衆国大統領セオドア・ルーズベルトが、新渡戸の「武士道」や「忠臣蔵」を愛読し、日本人の思想に興味を持ち、武士の行動原理に強い感銘を受けたとされています。そして、彼はアメリカ人初の柔道茶帯取得者でもありました。

ルーズベルト大統領と日本の関わりは何と言っても日露戦争終結のため仲介役を名乗り出たことですね。ポーツマス講和条約(1905)の事ですね。

日本としては、戦勝国として賠償金を得る事ができなかった点において、条約の評価は別れるようでもあるのですが、諸々の政治的な駆け引きがあったとしても「武士道」や「忠臣蔵」に描かれている忠義を重んじる日本人への理解が、仲介を引け受ける事にプラスに働いたという事は言えるのではないでしょうか。

そして、ルーズベルト大統領に留まらず、白人社会に対して日本人の理解を促した点においても、新渡戸の評価がされて、しかるべきです。ちなみに仲介役の功績によりルーズベルト大統領はアメリカ人初のノーベル平和賞を受賞しています。
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ノブレスオブリージュ∼高貴なるものの義務∼



政治家や官僚、企業経営者はいうに及ばず、ジャーナリズムを発揮しなければならないマスコミの人間までが倫理観の欠落・腐敗が問題視され、彼ら、社会の公器たる人間が引き起す不祥事を背景に、この武士道精神が重要な役割を果たすとして再評価される流れも出てきています。

日本人が培ってきた道徳観、見識、教養、在りようといった、新自由主義の価値観により進みすぎた資本主義・拝金主義の世界の中、いまいちど、人として大切なもの、守るべきも、生き方など、人生を全うするうえでのヒントを与えてくれると考えられます。



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